「すぅううみぃいいいいぃい〜」

林の中で叫ぶ声に、大好きな兄の返事はない。
離さないと思っていた手も、簡単に解けてしまった。

「……」

体操着の裾を掴み、涙が零れないように唇を噛む。
大丈夫、もう中学二年生でしょう。そう自分に言い聞かせて。

!」
「す――」

足音と共に背後から声をかけられ、 は勢いよく振り返る。
だが、そこに居たのは、求めていた人物ではなかった。

「み、じゃない……」
「悪かったな、俺で」
「ご、ごめん……」

がっかりしたことを申し訳なく思い、 はぺこりと頭を下げた。
その頭をわしわしと撫でられて、 は自分を見つけてくれた赤い髪の少年を見上げる。

「気にすんな。不安な時は、家族のこと考えちまうもんな」
「不安って……岳人、 の考えてることがわかるの?」
「顔見りゃ分かるよ。鼻真っ赤だし……泣かないで我慢したんだな、偉い偉い」
「んー」

頬を揉まれるように撫でられ、 は目を細めて声を漏らす。
そういえば、転校初日もこうして彼に見つけてもらった気がする。

「あのね、岳人」
「うん?」
、純を捜してたの。でも、見つけてくれたのが、岳人でよかった」

じっと彼の瞳を見つめたまま、 は彼にゆるい笑顔を見せた。
頬に触れた手を、自らの手で包んで、思ったことを口にする。

「純に見つけてもらってたら、きっと、これから先も同じだから」
「……一人じゃ何もできないって話?」
「うん」

目を細めて、岳人の手に頬ずりする。一瞬その手がぴくりと震えたが、彼は表情を変えずにそんな を眺めていた。

「まだ赤い?」
「えっ?」
「お鼻、さっき岳人が赤いって言ってた」
「ああ……少し赤み引いてきたかな。少しゆっくり戻るか、そしたらきっと分かんないぜ?」
「うん!」

当たり前に、自然と、手を伸ばす。
歩き出した岳人の揺れる手に。
そうしようとした自分に気付くと、 は慌てて自らの手を収めた。
純に頼らないために、優しいこの人を頼るの?

「違う、よね」

それじゃあ、だめ。
分かっているから、 は。

「? ?」
「いま、行くー」

小走りで岳人の横に並ぶと、まだ微かに赤い顔でにっと笑う。
少しだけゆっくりと。
歩き出したのは、大切な人たちに会うためだ。


 : 


back