「ねえ、部活とかどうするの?」
「ウチの部見に来ない?」
「朝跡部様と一緒だったって本当?」
「他のクラスの紫凪くんって兄弟なの?」

 時間はあっという間に過ぎ、昼休みにクラスでは皆が同じような事を聞いてきた。
 マンモス校である氷帝のクラスは一学年でもかなりの数になる。勿論四人それぞれが別のクラスになり、は一人見知らぬ学生の中に投げ出されてしまった。
 好機の目と質問攻めにはうんざりしたように愛想笑いを撒きながら、そっとクラスを出た。慣れるまで長くあの教室に居るのは少し気が引けたのだ。慣れない廊下を歩いて行くと、窓から気持ちのよさそうな中庭が見えた。

「まだ時間あるし、行ってみようかな」

 本当は純の所に行くつもりだったのだけれどよく場所も分からないしとは心で純に謝り、窓からひらりと飛び出した。一階にある廊下の窓枠を乗り越えただけだが着地の衝撃に一瞬足がじんと痛む。そのままふらつき、整備された芝生にぱたりと倒れこんだ。
 中庭には昼食を楽しむ生徒たちが遠巻きにを見ている。その少し嫌な視線が気になるが、執拗に話しかけられるよりはマシだ。

「何やってんだよ?」
 
 ふと、何かに陽射しが遮られが目を開けた。ああ、とは微笑む。

「景吾のお友達」
「俺は跡部のおまけか」

 瞳に映ったのは、赤髪の少年。切りそろえられた髪が、昔家で見た日本人形のようだなあとは思う。彼は、ここに来て初めて達が出会った人達の一人。名前は――

「だって名前、知らない」
「岳人。向日岳人。覚えたか、ちびっこ」
「ちびっこじゃないもん。だもん」
「わぁーったよ、

 で、何やってんの? と、岳人はの隣に座る。は身体を起こして膝を抱えた。小柄な二人が並ぶと、周囲からの視線はいっそう強くなる。

「逃げ出しちゃった。は純がいなきゃなんにも出来ないから」
「ふーん。ま、いんじゃね? 今はそんなんで。お前ら県外から四人で来たんだろ? 跡部から聞いたぜ」

 たちが、どうしてここに居るのかは跡部だけが知っている。きっと説明したところで、頭がおかしいとしか思われないということは、流石のにも理解できていた。ただ、出会った時から優しく接してくれた彼に堂々と嘘をつかなくてはならないのには、良心がちくりと痛んだ。

「でも、慣れそうにないんだあ」

 クラスも、この学校も。家のことを抜きにしても、今のには跡部という後ろ盾がある。その噂はとっくに広まり、彼に近づきたいとに声を掛ける者はきっと減らない。
 は膝をより抱え、跡部の言葉を思い出す。それは今朝、自分だけに打ち明けられたことで、がこの世界で背負ったもので、誰にも言ってはいけない秘密だった。
暗い顔のの横で、岳人は立ち上がる。

「なあ、ちょっと着いてこいよ」
「でも……時間……」
「三年男子、三クラス合同で次体育なんだ。跡部たちもやるから……見てけよ! すっげー楽しいから!」

 言われるがままに、は岳人に引っ張られて走り出す。視線を追い越し、風と見慣れない風景だけがそこに流れる。背後では、チャイムがよくある音を鳴らした。
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