保健室に連れ込まれた宍戸亮が目覚めたのは、それからさほど間もなくだった。よく状況が飲み込めない彼の前で、が深く頭を下げて見せた為怒鳴ることもなく彼女の謝罪を宍戸は受け取った。

「その……だな、空き缶の事は悪かった……」
「ん、ああ……」

 跡部はを知り合いの転校生だと宍戸に紹介すると、時計をちらりと確認した。朝の練習には間に合わないが、授業には問題ない。

「俺はと癒月を職員室に連れて行くから、お前は教室に行け。少し腫れてはいるが、切れてもいないし問題はないそうだ」
「おう……」
「景吾、純は?」
「見てねえが、職員室に行くようには言ってあるからそっちで会えるだろう……待て、下がってろ」

 不意に、跡部がを背に隠す。その様子に、宍戸は呆れた顔をした。

「来たのか?」
「なんだよ、突然」

 の疑問に答える間もなく、保健室のドアが勢いよく開く。

「隠したって無駄だよ、景吾」

 聞き覚えのある声で跡部を呼んだ人物は、男子の基準服に身を包んだ生徒。は、少し考えてそれが昨日携帯電話を押し付けてきた人物だと気づいた。あの時は颯爽と去ってしまった為、きちんとその容姿を確認することができなかったが今になってその人物の背丈が跡部と同じ程であること、中性的で端正な顔立ちをしていることに気づく。アシンメトリーな短髪は奇抜な深緑色で、男子の制服は似合っているがどこか違和感を覚えさせた。

「その二人、貰うからね」
「あのなあ、
「代わりにこの二人あげるから……」

 と呼ばれた人物は、廊下から何かをずるりと引きずると保健室に投げ入れた。どさりと倒れ込んだのは、何故か上等な端切れで縛られた純と。状況が分からないまま立ちすくむを余所に、その光景に黙っていられなかったのはだった。

「純!」

 跡部の腕をすり抜け、倒れる純に駆け寄ったはあっけなくに抱きとめられ、高い唸り声をあげた。

「おっと、大丈夫。大丈夫だよ、君たちのことはこの僕が可愛がってあげるから」
「ううう! 離してよお!」
!」

 跡部がを取り返そうとの腕を掴むも、はひらりとかわし整った笑顔のまま今度はの腕を掴んだ。状況が掴めず、なされるままのに宍戸も思わずベッドから降りて仲裁に入ろうとする。

、いいじゃねぇか。女テニだって部員腐る程いるんだからよお……」
「宍戸は黙っててよ。僕はこの二人が欲しいんだ。綺麗で可愛くて……二人がコートで舞う姿、とても美しいと思わないかい?」

 二人を抱きしめ、挑発的な表情を見せたに跡部も流石に苛立ったのか舌打ちをしてきつく睨みつける。その様子にも物おじせず、の頭を撫でながら問いかけた。

「ねえ、僕なら景吾よりもずっと君たちに尽くすよ?」
「やー! は景吾のお手伝いするの! マネージャーとして、頑張るの! お約束したんだから!」

 約束、その言葉を聞いては跡部をちらりと見た。床で倒れている純も跡部を見たが、その様子に変化は見れない。

「景吾、君は――いや、そうか。ちゃんが本当にそうしたいなら、僕は無理強いできないな」
「う?」

 突然二人を解放すると、は跡部にずいと近づき耳元で何かを囁いた。からは、その内容が聞き取れなかったが跡部は一瞬苦い顔をしての腕を掴もうとしてやめた。

「ねえ、でも何かあったら僕を頼っていいんだよ。僕は柳瀬。この氷帝学園中等部の生徒会副会長と女子テニス部の部長をしているんだ」

 じゃあ、と言い残し去って行ったに残されたたちはぽかんとしていたが、思いだしたように慌てて純とを縛っていた端切れを解いては純に抱きついた。解放されたは、眉を寄せたまま跡部に向き直ってじっと彼を見上げる。傍目には女子にしか見えないが跡部を見上げるその姿は、絵になりすぎていて宍戸は少し目を逸らせた。

「さっきの、柳瀬さん。女子、でしたよね」
「えっ」

 の後ろでが目を丸くしているが、跡部は深く頷いて「騒がせたな」と軽く謝罪すると床の端切れを拾い上げた。

「あいつは確かに女子だ。わけあってあんな格好をしているが、間違いない」
「ほあぁ、かっこいい女の子だったねえ」

 跡部がの頭を撫でると、純がすかさず取り上げる。朝からを跡部に取られていたのが相当気に食わなかったようで、純は跡部に対し威嚇ともとれる睨みと歯ぎしりを向けた。

「つか、お前ら時間……」
「は!」

 宍戸が時計を指さすと、は顔を見合わせた。転校初日から遅刻なんて粗相をしでかすわけにはいかないのだ。

、純行くぞ!」
「跡部さん案内!」

 ぎゅあぎゃあと騒がしく保健室を出て行った彼らを見送り、宍戸は困ったような笑顔で溜息をついた。あの跡部の知り合いで、あれだけ騒がしいのだ。自分たちは今後彼らに付き合っていくのだろう。彼らならば騒がしくとも、悪くはないかもしれない。そう考えながら、彼も保健室を後にした。

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