|
「向日! を何連れ回して――」 「な、先生頼むわ!」 はテニスコートのスタンドにちょこんと座っている。彼女をここに連れてきた張本人である岳人は両手を合わせて体育教師を見た。その後ろで跡部はを連れ回した岳人に叫んでいる。 「ったく、今回だけだぞ。転校初日からさぼらせるなんて、大した先輩だな向日!」 「っしゃ! さんきゅ、先生!」 岳人はに大丈夫と笑いかける。いい人なんだな、と彼を眺めてはぼんやりとした視線をテニスコートに広げた。 広いコートには、三クラス分の男子生徒が散っている。その中で、一際目立つ跡部に手を振る。そして隣のコートには、向日と―― 「なんでテメェが居んだよ、!」 何故か女子であるが。 「居ちゃダメなのかな」 「ああ」 「あ、ちょ、先生、放し、」 強制退場。 「なんだったんだ……?」 体育教師に引きずられていくをあきれ顔で見送り、岳人はぽつりと呟く。そんな彼の向かい、ネットに寄りかかるように金髪の少年が眠たげな目を岳人に向けていた。 「いーから始めよぉぜ?」 「ん。余裕で倒してやるよ、ジロー」 ようやく各コートでは試合が始まり、賑やかな声やボールを打つ気持ちの良い音が辺りに響く。その光景をやはりぼんやりと眺めながら、スタンドでは足をぱたぱたと揺らしていた。 「楽しそうだなぁ」 「楽しいよ、テニス」 「えと……柳瀬……先輩?」 の横に、先ほど教師に叩き出されたがすとんと座る。どうやら見学は許されたらしい。 「でいいよ。皆そう呼んでいる。もっと呼びやすいなら、他でも。ね、畏まらないで」 「でも……じゃあ、くん……?」 「うん。構わないよ。じゃあ僕は君の事ちゃんって呼んでいいかな?」 「うんっ」 小柄なから見て、は背が高くかっこいい。普段と一緒に居るでも、彼女の背の高さには少し目を丸くする。それでいて彼女は当たり前のように男子の制服を着こなしているのだ。似合うが、の中の狭い常識には大きな違和感がある。 「くんは、なんでスカートじゃないの?」 「スラックスの方が似合うだろう?」 それに、と続けたは目線をではなくまっすぐ空に向けていた。 「僕の大嫌いな人が、スカートを好きでね。反発っていうか、うん。まあ、似合わないっていうのが一番かな。でも君はふわふわで、可愛いもの。だから、ちゃんは僕の真似したらだめだよ」 ね、と微笑んだはの頭を撫でるとそのままそっと抱きしめた。されるがままのの顔に、柔らかな胸が押し当る。 「くん、は……景吾の、お友達?」 「うん」 「くんは、景吾とが仲良くするの、いや?」 「ううん」 「くんは、と仲良くするの、いや?」 「ううん。そんなことないよ」 抱きしめられたには、の顔は見えない。けれど、触れたところから伝わる温もりは安らかで。 「大丈夫かな、、すきになれるかな、ここを」 がそっとを腕から解き放つ。 「そうなるよう、僕も協力しよう」 今度はがを抱きしめる番だった。抱きしめると言っても、小さなにはの首に抱きつくのが精いっぱいだったのだが、それでもはぎゅうっと彼女を小さい腕の中に収めようと腕を大きく広げた。 「ありがとう、くん」 To Be Continued back |