部室を飛び出したは、駆けながら頬に感じる風のぬるさに唇をきつく結んだ。
繰り返し吐く言葉。何度も紡ぐたびに、薄れていく感覚。

「好き、なんだけどな」

はずっと見てきたのだ。
紙の上で真っ直ぐに戦うその姿を。
だから、目の前にしてもそれは揺るがないと思っていた。
現に、目の前にしても尚彼への憧れもときめきも変わらない。
それでも、頬に集まらない熱。跳ねあがらない鼓動。
きっと驚いているだけだ。最初はそう思っていた。それでも近づく程、自分の中で何かが賢明にブレーキをかけている。それは、親友のを見ているといっそう強くなった。

(あたしの)

一片たりともおふざけのない気持ちで、言葉で。

(気持ちは)

考えるのは、全てのこと。

(ここから、始まる――?)

走る足を止めて、上がった息を落ちつけながら辺りを見回す。
校庭を走る陸上部。柔軟をするサッカー部。守備練習のノックをしている野球部。
女子テニス部のランニングの声。体育館から響くバスケ部のスティール音。
息を吸って、吐いて。これが現実なのだと、はようやく自覚したようだった。

?」

男子にしては高めの軽やかな声に呼ばれて、は少しだけ肩を跳ねさせる。
声だけで誰か分かってしまうのは、もう何度も聴いた声だからだ。
一方的に知っている、少年は。

「ブンブン、どうしたの?」

丸井ブン太。あのテニス部の、レギュラー部員だった。

「ブンブンって……生意気だぞ、後輩だろぃ」
「んー、いやー、あはは」
「誤魔化さない! まあいいや、おまえ、敬語とか苦手なタイプ?」
「うん。使うとわけわかんなくなって、何一つ伝わらなくなっちゃうんだよねえ」
「あー、そんな感じ? しゃーねえな、許してやる。ほら、俺って寛容だろぃ?」
「カンヨウ……?」
「あ、深刻」

軽口混ざりに交わす言葉に、痛い程知る。
目の前に居る彼も、部室に居る憧れの彼も。
紙の上のキャラクターではない、のだ。

「心が広いってこと!」
「ああ!」
「大丈夫か、二年生……まあいいや、部活行くんだろぃ? まさか道に迷ったとか、言わないだろーなー」
「それは、分かるよ! 多分!」
「言い切れ! しゃーねー、連れてってやるよ、ジャッカルが……と言いたいとこだけど、ジャッカル居ねえんだよな、今」
「自分の言葉には自分で責任持った方がいいよ」
「おまえに言われると酷くムカつく。行くぞ!」
「はいはい」
「なんで返事が雑なんだよ!」

歩き出す背を追って、は大きく息を吸った。
自分の気持ちがどうなろうと、一つだけ言い切れることがある。
ここではは傷つかない。自身も、苦しむことがない。
金色に染めた長い髪を揺らして、は丸井の背を追って歩き出す。
怖くはない。だからきっと、大丈夫。

To be continued.





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