「へえ、じゃあ二人共テニス部なのか」

廊下を歩きながら、クラスメイトの仁王とそれから同じくクラスメイトの丸井ブン太と共に言葉を交わす濯は納得したように頷いた。

「柳生と……そうさな、ついでだから真田も誘うかのう」
「じゃあ、俺、ジャッカルと幸村くんと柳呼んでくるぜぃ」
「なんじゃ、テニス部全員と昼飯なんざ珍しいのう」

時刻は昼休み。
仁王がそうしたいと言いだし、まだこの学校に慣れていないであろうたちと昼食を共にしようと彼女たちのクラスへと赴くところだった。
他の友人を呼ぶというブン太と一旦別れ、仁王と濯は三年のクラスが並ぶ廊下の端、Aクラスの扉をガラリと開く。

「やーぎゅ」
「あーおいっ」

似たような調子で呼びかけると、呼ばれた二人が顔を上げる。
二人で昼を共にしようとしていたのだろう。机を向い合せにしていた作業を中断し、二人は扉の前までやってきた。

「どうしたの、連れ立って」
「昼飯、一緒にどうかなって。ほら、仁王には色々世話になってるし、友達も紹介してくれるって言うし。そういうの、おまえ面倒だって言いそうだけどさー」
「ふぅん。友達、ね……いいよ、行く。柳生も、それでいいかな?」
「ええ、友達……テニス部の皆さんでしょうか」
「さあ、どうかの」
「貴方がそういう言い方をするっていうことは、そうでしょうね。真田くんも呼ぶんでしょう? 今呼んで、支度をしてきます」
「俺たち、を拾ってくから、先中庭行ってて」

そう一言残し、濯と仁王は二人に軽く手を振って廊下から続く階段を登っていく。
上の階は二年生のクラスが並んでいるのだ。

もB組だったか」
「ん、そう言ってた」
「そうなると、赤也も呼んでやるかのう。本格的に、テニス部勢ぞろいじゃな……」
「あかや?」
「後輩じゃ」

そう言いつつ、目当てのクラスの前に来ると開いていた扉から中を覗き込む。
クラスの一番後ろ、何人かの女子に囲まれて困ったような笑顔を浮かべるを見つけると、濯は手を振って彼女の名前を呼んだ。

ー! 昼飯行こうぜー!」
「あ、たっくん! ……と、えーっと、仁王」
「おー、覚えててくれとったんか」

は自分を囲んでいた女子に頭を下げると、扉に駆け寄りじろりと仁王を見た。

「なんでこの人が一緒に居るの?」
「こらこら、。そう怖い顔するなって、今日は仁王も一緒に昼食うから」
「うへえって顔しよる」
「他にも沢山来るぞー。色々学校のこと教えてもらおうなー」
「もう……たっくんは勝手に決めて……」

はあ、と吐いた溜息。
はその一つで気持ちを切り替えたのか、仕方ないと言いたげに頷く。

「分かった。も拾って行くんでしょう? 今お昼持ってくるから、先にのクラスに行ってて」
「あ、そうそう。じゃあついでに赤也……切原赤也も連れてきてくれんかのう」
「切原、くん?」
「そういうわけじゃから、赤也ー、の言うことちゃんと聞いとけよー。は俺のオキニイリじゃけえ、承知せんぜよ」

大声で教室に呼びかけると、黒髪の男子生徒がびくりと肩を跳ねさせる。
それから、教室の隅で女子がきゃあと黄色い声を上げた。
あまり良くない事態であることを察したはきつく仁王を睨むとぴしゃりと扉を閉めてしまう。

「なんじゃ、怒らせてしまったか」
「んー、すぐ機嫌直るだろ。さて、あとはあのドアホだけか」

濯がそう言った瞬間のことだった。

「ひぎゃあぁああー!!!」

廊下を駆け抜ける悲鳴。何事かと声の方向を見た仁王の横を、金髪が一気に走り出す。
慌てて彼を追い、飛び込んだ教室で仁王は珍しく驚いたように目を見開いた。

「兄貴と仁王ぉお、助けてー」
「あれ、仁王。どうしたの、珍しい」
「何してんだ、バカ妹」
「何しとんじゃ、幸村」

少し癖のある黒髪に、男子にしては美しい部類に入る顔立ちの少年。今朝の段階でたちとは面識があったのだが、そんなことは濯には分からない。とにかく、その幸村と呼ばれた少年が爽やかな笑顔に似合わずの腰を小脇に抱えて――教室の中央で仁王立ちしていた。
濯は戸惑いつつも、横の仁王を見る。仁王はその視線を受け、仕方ないと言いたげに彼に近づいた。

「幸村、そん金髪はそっちの金髪の妹じゃ。何があったか知らんが、妹の失態は兄に責任を取らせろ」
「えっ! そういうやつなのそれ!」

仁王の言葉に濯は驚くが幸村は首を横に振ると、大人しくを床に下してその腕を掴んだ。

「ふぁっ、逃がしてはもらえない」
「あー……彼女とは今朝知り合ったんだけど、転校生だって言うから一緒にお昼でもどうかなって。それで、迎えに来たところなんだ」
「誘拐現場にしか見えんかったが」
「なんだか妙に怖がられちゃって、思わず、こう、捕獲を」
「あー……まあとにかく、今からそいつも誘って昼飯にしようって、兄貴の方とも話しとったんじゃが。どうせ幸村も誘うつもりじゃったし、そういう感じでどうかの」
「そっか。うん、それならきっと彼女も俺への警戒を解いてくれるかもしれないな」
「兄貴ーたすけてー」

ばたばたと腕を振り、が濯へと助けを求める。
それを無視して、濯はがしがしと頭を掻くと溜息を吐いた。

「とりあえず、他の奴らも待ってるからさっさと行くか」






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