世界へ
「ヒロト?」
「え、円堂くん……?」
ノックの直後に名前を呼ばれ、すぐに相手を察する。
時計を見れば消灯時間からは既に3時間程経っていたが、ヒロト自身始まったばかりの合宿で寝付けないでいた。
「どうしたの?」
扉を開けば、普段とは違う出で立ちの円堂が顔を覗かせる。
互いに寝巻で会うのは初めてだ。
「中々寝付けなくってさ」
「そっか。俺も、ずっと目が冴えちゃってたんだ」
簡素なベッドに腰掛け、会話を交える。
話している円堂は、ヒロトの瞳にはとても楽しそうに見えた。
「やっぱ興奮するよな! 世界だもんな!」
「ふふ、そうだね」
「な、何だよ! 笑うようなこと言ったか?」
「ううん、違うんだ」
笑いながら、ヒロトは枕を抱きしめる。
柔らかなそれに顔を埋め、多少恥ずかしそうに言った。
「嬉しいんだ、すべてが」
そう言うと、体が突然ベッドに倒れ込んだ。
服を円堂に引かれたのだが、少し驚いてヒロトも彼を見た。
彼もやはりベッドに仰向けになっていたが、その目は天井を見つめている。いや、本質として彼が見ているのは違う気がするが。
「世界だな」
「うん、世界だね」
「すっげー奴らが沢山なんだろうな」
「うん、きっと皆強い」
「勝てるかな」
「勝ちたいね」
「勝とうな」
「うん、勝とう」
「そしたら、もっと嬉しくなるな!」
円堂がヒロトを見る。
ニッとした笑顔は普段から見ていた筈なのに、こう近いと恥ずかしい。
血色の悪い頬の色が赤くなった気がして、枕で顔を隠した。
「顔、隠すなよ」
枕が手から放れる。
嗚呼、恥ずかしいだなんて。
「俺、ヒロトの笑ってる顔好きだ」
「えんどう、くん……」
「笑ってほしいから、さ」
だから勝とうな。
そう言った彼に、ヒロトはくらりとした。
それから二人で手を繋ぐと、他愛もないサッカーのことを話し出した。
舞台は世界へ。
ただ今は、純粋に好きなもののために。
fin.