恋に落ちる
時間までに準備しておいてね!
秋の言い付けを守り、練習を早めに切り上げたイナズマジャパンは各自部屋へと慌ただしく戻っていった。
部屋には既にタキシードが用意されており、各人シャワーで汗を流すとそれに手を通して玄関に集合する。
そんな中、ヒロトだけは部屋で完全に固まっていた。
(手違いだよ、ね)
タキシードのジャケットに、ミニのスカート。ちゃっかりパニエまで付いている。
(ええええ、なんだっけこれ、ペチコート? パニエ? じゃなくて、なんでスカート?)
多少混乱しつつ、ヒロトはとりあえずシャツに袖を通した。
とりあえず、下はジャージを着て誰かに何とかしてもらおう。そう考えたのだ。
「うわあ……」
我ながら変な格好だと思いつつ、ヒロトは扉を開く。
「お」
「あ」
廊下にたまたま居合わせた円堂と目が合うとヒロトは、すすすと部屋へ戻ってしまった。
中途半端な格好を円堂に見せるのだけは、勘弁だ。
「ヒロトー、どうしたー」
「えええ円堂くん! ちょっと木野さんか誰か呼んできてくれないかな!?」
「なんだよー。俺じゃダメなのか?」
必死にドアノブを止め、扉に全体重を乗せて円堂を阻止する。
しかし、ヒロトの不審な行動が気になるのか、円堂は仕切りにドアを叩いた。
「実は、パーティーの衣装に手違いが……」
「手違い?」
「……スカートが用意され――」
「ゴッドハンドォオォォォオオ!!!」
バンッ
「穿いてみろよ!」
「うわあ、良い笑顔……」
必殺技の乱用である。
無惨にも扉を突破されたヒロトは、肩を落として後ずさった。
「ちょっとだけ!」
「え、なんで扉閉めたの今」
「はーやーくー」
「円堂くん?」
渋るヒロトだったが、円堂の頼みとあれば聞かないわけにもいかず。
仕方なさそうに、スカートに足を入れた。
パニエを穿き、ジャージを脱ぐ。何のオプションなのか、付いていた黒タイツも穿けばヒロトは恥ずかしそうに俯いてしまった。
「着たけど……」
「……」
「?」
黙ってしまった円堂が気になり、顔を上げる。
と、ヒロトは目を丸くした。
「え、な……」
「っ……」
口元を抑え、目線を逸らした円堂の顔は真っ赤で。
なんていうか、恥ずかしい。
「ヒロト、お前本当に男?」
「失礼な! 俺はちゃんと男だよ!」
「似合いすぎだろ……」
真剣な眼差しが、サッカーを楽しむ瞳がすきだった。彼の姿勢が、性格が、全てがすき。
なのに、何故だろう。
(あ……)
何度でも、一目惚れを繰り返す。
「円堂くんがエスコートしてくれるなら、俺はこれでも構わないよ」
「それはダメ!」
「えー」
気付けば彼の腕の中で。
敵わないと思う。円堂には、ずっと。
「このヒロトは、俺以外見れないんだ。そっちの方が、なんか良いだろ?」
ヒロトははにかむと、円堂の背中に手を回して瞳を閉じた。
太陽の匂いを感じながら、何度だって恋に落ちる。
fin.