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「ぴょんぴょんげこげこ」 「……」 「げこげこぴょんっ」 「っ、……殿……?」 「はい、なんでしょう」 わざとらしくにっこりと微笑んだ。 普段より幾分か悪戯な、楽しそうな笑顔の彼女に、楓は小さく溜息を吐いた。 「可愛く笑っても、ごまかしは効かぬでござるよ」 「だって、楓さんの弱点が余りに意外だったから……」 そう言ったに、楓は再び溜息を吐く。 最大の弱点はであると、この状況で言うのは釈だったので止めた。 というのも、楓の向かいに座るの手には小さな青蛙。 蛙が苦手な楓は、いつ跳び上がるとも知れぬそれに警戒が解けないでいるのだ。 「蛙というのは――様々な種類があり、中には主たる殿の名を冠するものも居る。主に絶対服従の忍者としては、その縁者を含めて逆らうことが出来ぬのでござる」 「でも、蛙は蛙ですよ。げこげこ鳴いてる蛙ですよ。楓さんとあろう者が、ただの蛙一匹に脅えるのは意外です」 「脅えるというより、"苦手"なだけでござる」 「ああ、それで楓さんは"ガマの油"などを使わないで呪符による東洋魔術を織り交ぜた忍術なのですね」 それは威力がと、言い訳がましい言葉を言いかけた楓に、は蛙を差し出して見せた。 途端に楓は黙り込む。 普段ならば形勢はまったくの逆で、にべったりの楓だが、どうにもは悪戯スイッチが入っているようだ。 蛙を手放したら、途端に仕返しをしてやろう。楓は心に決めた。 「私は蛙、好きですよ」 カエルとカエデの音が似ている所為か、一瞬動揺する。 しかし、楓はすぐに警戒を強めた。 「楓さんが持つ楓の木の葉。あれが蛙の手に似ていたことから、カエルデ――楓という名が付いたと言われているんです」 「あまり知りたくはなかった情報でござるな……」 「そうですか?」 はあらかた満足したのか、蛙を地に降ろした。 それから、楓に笑顔を見せた。 「でもやっぱり、蛙より楓さんの方がすきで――」 蛙を手放し、こんなに可愛いことを言われて、おとなしくしている楓ではなかった。 持ち前の素早さでに飛び掛かれば、二人は柔らかい草の這う地に崩れて沈む。 「か、かえでさんっ」 「悪戯が過ぎるのが悪い」 「えっ、えっ、ちょ、楓さぁん!」 麻帆良の大自然に、の声を聞くのは楓だけ。 抵抗虚しく諦めたは、掌を突き出して呟いた。 「私、さっき散々触ったから、蛙塗れですよ」 「えっ」 思わず固まった楓に、これは使えると頷く。草木の茂る自然のどこかで、蛙が笑うように鳴いていた。 fin. |