「ウルビダ様」


強い貴女はジェネシスという最高の称号を得て、


「何か用か、


体の弱い私は、施設を駆ける小間使い。


「夕食の支度が調いましたので」


昔はこんな差なんかなくて、身寄りがない皆で体を寄せ合って生きていた。
今は、お父さんのために張り詰めた空気の中自分を偽って過ごしている。
ねえ、私は気付いているんですよ。皆は本当はあの頃のままだって。
どんなに自分に嘘ついたって、どんなに悪いことをしたって、誰も何も変わってないことを。


「ウルビダ様、夕食はこちらにお運びしてもよろしいでしょうか」
「ああ、頼む」
「畏まりました」


それでも、これがお父さんの望んだことなら。
どんなに馬鹿げたお遊戯にも、私は熟してみせる。サッカーが出来ない私には、こうするしかないのだから。


「では、失礼します」
――」
「はい?」


呼び止められ、その寒色の瞳を見つめ返す。
ウルビダ様は、眉を寄せてやはり私を見ていた。


「お前の夕食も、ここへ運んでこい」
「何故、ですか」
「たまには良いだろう」
「しかし、私はまだ仕事が――」
「なら終わるまで待とう」
「それではお夕飯が冷めてしまいます」
「構わない。断るつもりか? 私はジェネシスだ。断れるのか?」


ジェネシス――
私達の中で、最も位の高いチーム。
私には手の届かない存在。お父さんの期待を受ける、一番のチーム。
私が、私なんぞが逆らえるものではない。


「畏まりました」
「……」


部屋を出て、硬質なグレイの廊下を歩き出す。
冷たい足音を響かせて、単調なリズムを刻んで。
全て、お父さんが望んだこと。






「……」
「……」


共に食事といえど、言葉を交わすことはない。





筈、なのに。


「最近変わったことはないか」
「いえ、特には」
「そうか」
「皆様、お変わりないですよ」


ウルビダ様は私に言葉を投げる。


は――変わったな」
「え……」


それきり彼女は口を閉ざし、夕食を口に運んだ。
私はといえば、変わったと言われた驚きに暫く動けないままだった。


、立て」
「はい」


食事を終えたのか、ウルビダ様が私に命令する。
ウルビダ様は、私を眼前に立たせると、自らも立ち上がった。


「お前の前に居るのは誰だ?」
「チーム・ジェネシスのウルビダ様です」


模範的な解答を述べた筈なのに、ウルビダ様は眉を寄せて、どこか悲しそうな表情をした。


「違うな、不正解だ」


そう言って、貴女は私の肩を押した。
いとも簡単に私の体は倒れ、ベッドの上に仰向けで沈んだ。
よく理解が出来ない内に、ウルビダ様が私に跨がった。


「本当に変わってしまったんだな」
「ウルビダ様、何を――」
「嫌なら抵抗をしたらどうだ。ジェネシスなんてもの、ただの名前でしかないだろう?」
「しかし、あの、ウルビダ様……」
「抵抗しないのか?」
「私のような者が、ジェネシスである貴女に抵抗なんて」
!」


名前、を。
名前を叱るように呼ばれ、口を塞がれた。塞がれたなんてそんな言い方では正しくない。
俗に言う、キス、接吻。唇を重ねる行為。女、同士、で。


「抵抗してよ、……」


ボツ、と大粒の雫が私の頬を叩く。
逆光で暗くなったウルビダ様の顔は、唇を噛み締めて泣いていた。
私には理由が分からない。だけど一つだけわかった。
この人は、昔と何一つ変わっていない。


「ウルビダ様……」


私といえば、彼女の涙にさえ冷静で居られる。それくらいには変わってしまったようだ。
お父さんが望んだから。
なのにどうして、貴女とお父さんは望みが違うの? 私は変わってはいけなかったの?


、私は、昔のがだいすきだった」


昔の。
その言葉が深く突き刺さる。深く、深く。もう二度と抜けないのではないかと思う位に鋭く。


……っ」


泣いている貴女に言葉も掛けず、私は白く光るライトを見つめる。
私はどうすればいいのか分からず、ただゆっくりと瞼を下ろした。

貴女はきっと、疲れているだけ。



fin.
back