相合傘

短縮授業で、午前授業。部活は休み。
学生は鳥籠から飛び立つ鳥のように、思い思いの用事に勤しもうとしていた。
しかし、それを妨げるかのような大粒の雨が弱冠14の少女を酷く陰欝な気分に染める。もしかしたら原因は違うのかもしれない。
溜息を吐きつつ、は足を止めた。

「風邪ひくよ」

はじっとりと、嫌な視線を目の前に送った。
雨の中で立つオレンジ頭は、つい先程鼻の下を伸ばして去っていった親友だ。
デートとか言っていたが、は呆れたように再び口を開いた。

「キヨ、ほっぺ腫れてるよ」

「あー……あはは、バレた?」

ぐしゃぐしゃに濡れながら、案外彼は明るく笑った。それから、何の気兼ねもなくの傘に入り込む。
彼から滴った雫が、の制服を濡らした。

「傘は?」

「持ってかれちゃったんだよねー」

「ばかじゃないの?」

「あはは」

よくあることだと、は傘を千石に渡した。
躊躇うことなく、二人は同じ歩調で歩み出す。

……」

「っ!」

するりと伸びた手をかわし、は千石の手を叩いた。

「ばか」

「えー、俺今傷心なんですけど……」

「だったら早く新しい彼女見付けなよ。いつもみたいにさ」

「……は、俺のこと応援してくれる?」

「何よ、今更。私はそんな薄情な人間じゃないよ」

一歩、何も考えずに進めば途端に襲う雨。慌てて振り返ると、千石は傘を持ったまま立ち止まっていた。
眉を寄せ、は傘に駆け込んだ。

「何、濡れちゃうじゃん!」

「ごめん」

「どうしたの? 今日のキヨおかしいよ」

「うん」

「何かあったの?」

は心配そうに千石の顔を覗き込む。
とても寂しそうな表情で、彼はを見た。

が、優しいからだよ」

の手が、空を切る。
渇いた音が、雨に吸い込まれて消えた。
に叩かれた所を抑え、千石は心底驚いたようにを凝視した。

「優しくなんかない!」

傘はとうに落ちて二人は雨に曝されている。
は唇を噛み、千石を睨む。

「優しいよ、優しすぎるよ……」

「そんなこと言わないでよ!  私はそんな人間じゃない!」

ああ、馬鹿みたい。
の中で、何かが崩れた気がした。

「私は……嫌な奴、だから」

「そんなことないよ」

「あるんだよ」

冷えていく身体、思考はぐちゃぐちゃになった。
軽蔑してくれればいいのに。私は、君に嘘をついていた。

「いつも、キヨが取られたみたいで嫌だった」

「え――?」

「キヨが誰かと付き合うのが、嫌で仕方なかったの。私は、嫌な奴なんだよ」

千石の隣に居ることが、無性に辛くなったは静かに言った。
「優しい」と言ったから、そう信じていた千石を裏切ったから、は。

……」

そんなの頬に、千石の手が触れた。

「なんだかなぁ。ごめんね、

「っ……」

「俺は、ずっと間違ってたみたい。にこんな思いさせるためなんかじゃなかったのに」

傘を拾って、雨を遮る。
二人だけの空間で、千石は眉を下げながら言った。

「『本気じゃないなら別れて』今日言われた言葉。そうだよね、だって俺はずっとしか見てなかったんだもん」

「キ、ヨ……?」

「すきだよ、。怖くて言えなかったけど、はずっと嫉妬してくれてたんだよね」

困ったように笑う千石の表情に、は俯いた。

「……ずるい奴」

「あはは、俺に惚れたが悪い」

「惚れてないし!」

「でも、俺取られたくないんでしょ? やー、そんな可愛いこと言うなんて……」

「馬鹿! もう知らないっ」

スタスタと歩き出したを、慌てて追う千石。
二人の表情は、ついさっきとは違い柔らかい。
目線も合わせずはにかむと、二人はそっと手を繋いだ。